老人の死亡交通事故の慰謝料・賠償金は安い?

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死亡交通事故の被害者の家族は、被害者がお年寄の場合でも、若者の場合でも、同じようにとても悲しく辛い思いをします。しかし、高齢者の交通事故の場合、加害者の損害保険会社から提示された損害賠償金の額が安くて驚いた、ということがよくあります。どうして高齢者の場合、交通事故の被害にあった際の賠償金が安くなってしまうのでしょうか?

死亡交通事故の損害賠償の基準

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交通事故の損害賠償を弁護士に依頼した場合は、通常、弁護士基準(裁判基準)と呼ばれる算定基準が用いられます。これは過去の裁判例をもとにして、もし損害賠償請求の裁判を起こして慰謝料を請求した場合は、裁判所がどの程度の損害賠償を認めるかという視点から作られた基準です。

「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準篇)」(公益社団法人日弁連交通事故故相談センター東京支部)という本に掲載されています。この本は表紙が赤いことから、通称「赤い本」と呼ばれています。以下、この基準をもとにして、高齢者の交通事故の賠償金について確認していきます。

治療費が安いことが多い

交通事故の怪我で入院もしくは通院した場合は、加害者に治療費の実費を請求します。入院した場合は毎日の入院雑費も請求できます。大怪我で長期間入院した場合などは、治療費は大きな金額になります。しかし、死亡交通事故の場合で、その場で亡くなられた場合や、病院に搬送されてすぐに無くなった場合は、ほとんど治療はなされず、医師に死亡の診断を受けるだけになります。

この場合、治療費などの実費がほとんどかからないので、その分加害者の損害保険会社からの提示額も少なくなります。これは死亡交通事故なら高齢者でも若者でも同じことですが、損害賠償額全体が小さく見える原因の一つかもしれません。

葬儀費用は150万円

死亡交通事故の場合、弁護士基準では、葬儀費用として原則150万円の実費を請求できます。実際にかかった金額が150万円を下回る場合は、実際に支出した金額を請求します。これは働き盛りの方の死亡事故でも、高齢者の死亡事故でも、違いはありません。

なお、請求する際に、葬儀にかかった実費から、葬儀で受け取った香典を差し引く必要はありません。また、香典返しは損害としては認めらないので、香典返しとして支出した分を損害として加害者に請求することはできません。

参考までに、自賠責保険の支払い基準の場合は、葬儀費としては原則60万円が支給されます。立証資料等により60万円を超えることが明らかな場合は、100万円までの範囲で、必要かつ妥当な実費の支給を受けることができます。

慰謝料は働き盛りより安くなりがち

弁護士基準の死亡交通事故の慰謝料は、一家の支柱の場合は2800万円、母親・配偶者の場合は2400万円、その他の場合は2000万円から2200万円が基準とされています。

高齢者の場合は、家族構成や経済的実情から一家の支柱とされる状態のことは少ないため、2000万円から2200万円ほどが基準となることが多く、働き盛りの年齢の人よりも慰謝料が低めになる傾向があります。

参考までに、自賠責保険の支払い基準の場合は、死亡本人の慰謝料は350万円です。これに加えて、被害者の遺族が、請求権者1人の場合には550万円、2人の場合は650万円、3人以上の場合には750万円を請求できます。

被害者に被扶養者がいるときは、これに200万円を加算するとされています。

逸失利益が少ない場合がある

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死亡交通事故の場合、死亡した被害者が生存していれば得られた収入に相当する額の損害を受けたと考えられます。そこで、死亡により失われた収入を逸失利益として、加害者に損害賠償請求することができます。この金額を算出する基本的な計算式は、「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」、となります。

この式を見れば分かるように、基礎収入がベースとなりますので、死亡した時の収入が多ければ、死亡による逸失利益が高くなります。高齢男性の場合は既に現役をリタイアして年金収入のみということが多いので、働き盛りの人のような収入があることは少ないでしょう。

また、生活費控除率というのは、生きていれば収入のうち何割かが生活費になりますが、亡くなったことで生活費が必要なくなったので、その分は損害額から控除するという考え方です。弁護士基準では、「年金部分についての生活費控除率は、通常より高くする例が多い」とされており、働き盛りなら40%の控除で済むところ、高齢者は50%控除されることがあります。

さらに、この計算式では「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」を乗じることになっています。ライプニッツ係数の説明はここでは差し置くとして、就労可能年数を乗じると言うことは、就労可能年数が短い高齢者の場合は、受け取る金額が低額になるということです。

年金受給者の逸失利益を計算する場合、就労可能年数は平均余命をもとに算出します。平均余命は高齢であれば短くなります。こうしたことから、高齢であればあるほど、逸失利益は少なくなります。

高齢者が交通事故の被害者になると損害賠償金は安くなる

以上のようなことから、とても残念なことですが、高齢者の死亡交通事故による損害賠償金は、低額になりがちです。それでも、死亡交通事故の場合は、逸失利益は低額になるものの、葬儀費用や慰謝料には大きな差がありませんので、働き盛りの人と比べて、それほど大きな差はありません。

高齢者の交通事故の場合でより悲惨なのが、死亡には至らないが、大怪我で動けなくなった場合などです。例えば、働き盛りの年齢の人が大けがをした場合、休業損害を請求できます。これは、事故前の収入を基礎として、受傷によって休業したことによる現実の収入減少分が補償されます。

サラリーマンが大怪我をして1年間入院した場合などは、仕事をしなくても、相当高額な補償がなされることになります。しかし、(家事従業者は別として)働いていない高齢者に、休業損害はありません。ここで賠償額に大きな差が生まれます。

また、交通事故で大怪我をして後遺障害を負った場合は、後遺障害を負ったことによる慰謝料や、後遺障害で労働能力が失われた分の将来の逸失利益を請求することになります。例えば働き盛りの30歳であれば、就労可能年齢の67歳までの37年分の逸失利益を請求します。

この先働ける年数が多いので、後遺障害逸失利益の賠償額は高額になります。逆に、高齢になればなるほど、将来働けるはずの年数は短いものとされ、後遺障害逸失利益は少なくなります。後遺傷害を負っても、就労可能年齢を超えている高齢者は、ほとんど後遺障害逸失利益をもらえません。

このようなことから、高齢者の交通事故では損害賠償金は低額になりがちです。